【コラム㉝】工場の屋根塗り替え費用、張り替えより本当に安い?
屋根の塗り替え費用を見積もってもらったら、張り替えより数百万円安かった。
上司には「安いほうでいいだろう」と言われたものの、築年数を考えると本当にそれで済むのか、自分でもうまく説明できない。
こんなふうに、2枚の見積書を前にして手が止まったことはありませんか?
先にお伝えしておくと、見積書に並んだ金額の差は、そのまま損得の差にはなりません。塗り替えと張り替えでは、その金額で何年分の屋根を買っているのか、会社の決算にどう載るのか、工事のあいだに社内で何が起きるのかが、それぞれ違うためです。
この記事では、工場や倉庫の屋根で塗り替え費用と張り替え費用を比べるときに、金額の横にそろえておきたい3つの物差しを整理します。読み終えたときに、社内で「なぜこちらを選ぶのか」を説明できるところまでお手伝いします。
01塗り替えと張り替え、見積書に出る金額の差
工場や倉庫の波形スレート屋根で「張り替え」というと、既存のスレートを撤去して新しい屋根材に替える葺き替えと、既存の屋根を残したまま上から金属屋根材を重ねるカバールーフ工法の2つを指すことがほとんどです。
㎡あたりの費用の目安は、塗り替えが5,000円から8,000円前後、カバールーフ工法が8,000円から10,000円前後で、葺き替えはさらに上になります。2004年以前のスレートでアスベストを含んでいる場合は、撤去に専門の処理が加わるため、葺き替えの費用はもう一段上がります。2つの工法の違いはカバールーフと葺き替えの違いで費用と工期を並べて比べています。
| 工法 | 工事の内容 | ㎡あたりの目安 | 屋根面積1,000㎡の場合 |
|---|---|---|---|
| 塗り替え | 屋根材の傷みの進み方を遅らせる | 5,000〜8,000円前後 | 500万〜800万円前後 |
| カバールーフ工法 | 既存の屋根を残したまま上から金属屋根材を重ねる | 8,000〜10,000円前後 | 800万〜1,000万円前後 |
| 葺き替え | 既存のスレートを撤去して新しい屋根材に替える | さらに上 | — |
※アスベストを含むスレートの葺き替えは、撤去に専門の処理が加わるため、もう一段上がります。
02物差し1 その金額で何年分の屋根を買うのか
塗り替えは、屋根材の傷みの進み方を遅らせる工事です。塗膜がもつのはおおむね10年前後で、そのあいだも屋根材そのものは年を取っていきます。一方のカバールーフ工法は屋根の表面を新しくする工事なので、20年以上を見込めます。
塗り替え
10年前後
カバールーフ工法
20年以上
たとえば、1,000㎡の工場をこの先20年使う予定だとします。
| 比べる項目 | 塗り替えを続ける | カバールーフにする |
|---|---|---|
| 工事の回数 | 2回(いまと10年後) | 1回 |
| 工事費の合計 | 約1,300万円 | 約900万円 |
| 足場を組む回数 | 2回 | 1回 |
| 20年後の屋根 | 屋根材が寿命を迎えている可能性が高い | まだ使える状態が残っている |
※塗り替え1回を650万円、カバールーフを900万円とした試算です。実際の金額は屋根の状態や立地によって変わります。
しかも10年後の塗り替えは、そのときの人件費や資材の価格で見積もられます。屋根材も築年数が進んでいるため、下地の補修が増えることも珍しくありません。表の1,300万円は、どちらかといえば控えめに見た数字です。
足場の費用も効いてきます。工場の屋根は面積が広く、組むたびにまとまった金額がかかります。足場の費用がどう決まるのかは工場・倉庫の屋根工事で足場は必要?で整理していますが、2回組むか1回で済むかで、総額の差はさらに開きます。
03物差し2 決算にどう載るのか
設備担当の方が見落としやすいのが、この物差しです。同じ金額を払っても、工事の中身によって会社の決算への載り方が変わります。
税務上、傷んだところを元の状態に戻す工事は「修繕費」として、その年の経費になります。一方で、建物の価値を高めたり、使える期間を延ばしたりする工事は「資本的支出」として資産に計上し、何年かに分けて費用にしていきます。この判定は、見積書の名目ではなく工事の中身で行われます。
屋根の塗り替えは傷んだ塗膜を元に戻す工事なので、一般的には修繕費として扱われます。カバールーフ工法のように屋根を新しくして、断熱性や強度まで上がる工事では、資本的支出と判断される部分が出てきます。
| 比べる項目 | 塗り替え | カバールーフ・葺き替え |
|---|---|---|
| 主な扱い | 修繕費 | 資本的支出を含むことが多い |
| 費用になる時期 | 工事をした年にまとめて | 何年かに分けて |
| その年の利益への影響 | 大きく減る | 減り方がゆるやか |
どちらが都合がよいかは、その年の会社の状況で変わります。利益が大きく出ている年なら、まとめて経費にできる塗り替えが選ばれやすくなります。反対に、今期の利益を大きく減らしたくない年なら、分けて費用にする工事のほうが社内で通りやすいこともあります。「安いほうで」という一言の裏に、実はこの事情があったというお話も伺います。
04物差し3 工事のあいだに社内で何が起きるのか
見積書に載るのは、施工会社が行う工事の費用だけです。工事のあいだに社内で動かすもの、止めるものの手間は、どこにも書かれていません。
| 場所 | 塗り替え | カバールーフ | 葺き替え |
|---|---|---|---|
| 室内 | ひび割れから洗浄水が落ちることがあり、設備や製品の養生が要る | 屋根を開けないため影響は小さい | 屋根を開けるため、設備の移動や養生が大がかりになる |
| 屋外 | 洗浄水や塗料の飛散に備えて、車両や屋外の保管品を動かす | 資材の置き場を確保する | 廃材の搬出と粉じんへの対策が要る |
| 天候 | 気温や湿度が合わないと塗れず、工期が延びやすい | 比較的受けにくい | 屋根を開けているあいだは受けやすい |
| におい | 溶剤系の塗料では出る | 少ない | 少ない |
塗り替えで意外と多いのが、高圧洗浄の段階でのご相談です。年数の経ったスレートには細かなひび割れがあり、洗浄の水がそこから室内に落ちることがあります。食品や精密部品を扱う区画では、その日の作業を止めて養生をしなければなりません。溶剤系の塗料を使う場合は、においが換気口から入らないように作業の区画を分けることもあります。
05社内で説明するときにそろえておきたい材料
3つの物差しで比べるには、次の材料が手元にあると話が早く進みます。
このなかで、いちばん手に入りにくいのが屋根全体の写真です。地上からは屋根面がほとんど見えず、かといって自社の従業員が屋根に上がるのは避けてください。年数の経った波形スレートは踏み抜きの危険があり、労働安全衛生規則でも歩み板の設置などの措置が求められています。点検の頻度や見るべき箇所は工場・倉庫の屋根点検はなぜ必要?でまとめています。
06比べる前に、屋根の状態を確かめる
塗り替えで足りるのか、張り替えを考える段階なのか。その答えは、見積書ではなく屋根そのものが持っています。ひび割れが一部にとどまり、素地がまだ健全なら塗り替えが合います。割れや雨漏りが広がっている屋根では、塗っても次の10年はもちません。
塗り替えが合う屋根
ひび割れが一部にとどまり、素地がまだ健全
塗っても次の10年はもたない屋根
割れや雨漏りが広がっている
ヤマトC&Cでは、ドローンによる屋根点検に対応しています。屋根に上がらずに屋根面全体を撮影できるため、足場は要らず、操業を止めていただく必要もほとんどありません。撮影した画像は、社内でのご説明にもそのまま使っていただけます。
塗り替えで十分な屋根であれば、そのようにお伝えします。張り替えを考えたほうがよい屋根であれば、カバールーフと葺き替えのどちらが合うのかを、費用の見込みとあわせてご説明します。
工場の屋根の塗り替え・張り替え費用に関するよくある質問(Q&A)
07まとめ
屋根の塗り替え費用は、張り替えより見積金額が安く出ます。ただ、その差は同じ条件で比べた差ではありません。塗り替えは10年前後、カバールーフは20年以上と、その金額で買っている屋根の年数が違います。
さらに、塗り替えは修繕費としてその年の経費に、張り替えは資本的支出を含んで何年かに分けて費用になることが多く、決算への載り方も変わります。工事中に社内で止めるもの、動かすものの負担は、見積書には書かれていません。
| 物差し | 塗り替え | 張り替え |
|---|---|---|
| 1. 何年分の屋根を買うのか | 10年前後 | カバールーフは20年以上 |
| 2. 決算にどう載るのか | 修繕費としてその年の経費 | 資本的支出を含み、何年かに分けて費用 |
| 3. 工事中に社内で何が起きるのか | 止めるもの、動かすものの負担は見積書には書かれていない | |
建物をあと何年使うのか、今期の決算をどう見せたいのか、操業をどこまで止められるのか。この3つをそろえてから金額を並べると、社内で説明のつく答えが出てきます。その出発点として、まずは屋根の現状を確かめるところから始めてみてください。



